先日、こんなツイートをしました。
【#バスケのルールテスト】
第2クォーターのプレイ中、チームAのコーチが、ベンチにいる選手A6を叱責した後に殴った。この時コーチは
今回もたくさんの方に投票いただきました。色々な意見が見えれましたね。
今回はこちらのケースについて解説をしていこうと思います。
内容は以下の通りです。
- コーチが選手を殴ったら。処置を解説します。
- クリーンバスケットの浸透へ
- 誠実な世界はくるのか
この記事は、「バスケ歴20年」「JBA公認審判」である筆者による解説となります。ルールブックにのっとりながら丁寧に説明をしていきますね。
コーチが選手を殴ったら。処置を解説します。
さっそくですが、今回のケースの答えです。
答え:ディスクォリファイングファウルです。
そう、これはコーチが一発退場になるほど重いケースになります。ルールブックには以下の記載があります。
ディスクォリファイングファウルとは、プレーヤー、交代要員、コーチ、アシスタントコーチ、5個のファウルを宣せられたチームメンバー、チーム関係者によって行われる、特に悪質でスポーツマンシップに反する行為に対するファウルのことをいう。
P49 第38条 ディスクォリファイングファウル 38-1-1 2019バスケットボール競技規則解説
ゲーム中に、スポーツマンシップとフェアプレーの精神に反する暴力行為が起きたときは、審判または必要に応じて警備担当者により、暴力行為を速やかにやめさせなければならない。
P49 第38条 ディスクォリファイングファウル 38-2-1 2019バスケットボール競技規則解説
ディスクォリファイングファウルとは、プレーヤー、コーチ、アシスタントコーチ、交代要員、5個のファウルを宣せられたプレーヤー、チーム関係者による以下の著しくスポーツマンらしくない行為に適用される:
⒜相手チーム、審判、テーブルオフィシャルズやコミッショナーに対する行為。
P155 第38条 ディスクォリファイングファウル 38-7 2019バスケットボール競技規則解説
⒝自チームのメンバーに対する行為。
⒞観客を含む会場にいる全ての人に対する行為。
⒟用具・器具を破損する意図的な行為。
つまりここに書かれている通り、今回のケースでは暴力行為のような悪質な行為は、自チームのメンバーに対しても行なってはいけず、もし起きた際には「ディスクォリファイングファウル」が適応されることになります。
クリーンバスケットの浸透へ
さて今回のケース答えてみていかがでしたでしょうか?
今回のツイートでも50名ほどの方が回答してくれました。50%以上は「テクニカルファウル」という回答をしてくれており、正解である「ディスクォリファイングファウル」は31%しか票があつまりませんでした。
なぜこうした差が生まれたのか、最初は私も理解ができなかったのですが、よくよく考えたら一つ思い当たるケースがあったのでこちらでご紹介します。
JBAから発信された新メッセージ
それは2019年3月11日にJBAから発信された「クリーンバスケット、クリーン・ザ・ゲーム~暴力暴言根絶~」というメッセージです。以下に大事なポイントを引用してご紹介します。
このたび、同委員会からの提案により、JBAは新たなメッセージとして、「クリーンバスケット、クリーン・ザ・ゲーム」を発信し、喫緊の課題として「暴力暴言根絶」に取り組むことといたしましたので、お知らせいたします。
暴力暴言をはじめとする、すべてのハラスメントのないバスケットボール界を目指し、皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
〜中略〜
3) 競技規則、プレーコーリング・ガイドラインの徹底
JBA公式サイト
①コーチの暴力的行為および暴言といった振る舞いに対しては、「リスペクト・フォー・ザ・ゲーム」の観点からテクニカルファウルとする。
②コーチがテクニカルファウル(C) を2個宣せられた場合、失格退場とする。
③失格退場となった場合、現段階では規律案件とはせず、次試合の出場停止処分等は科さない。
2019年に宣言されたこちらの方針のなかで「コーチの暴力的行為および暴言」は「テクニカルファウル」とするガイドラインが徹底されることになりました。おそらくこちらをみて、今回ツイートしたケースは「テクニカルファウル」なのではないか、と思った方がいたのではないでしょうか。事実、最初は私もそう思いました。
そこで、さらに深く調べていくことにしました。そうすると、ここで宣言されているテクニカルファウルに該当するケースが、具体例とともに提示されていました。それがこちらです。
【テクニカルファウルの対象となる振る舞い(行動・行為)】
JBAプレーコーリング・ガイドライン(2019年4月1日~)
1.コーチのプレーヤーに対する暴言
(1)人格、人権、存在を否定する言葉
〈具体例〉 最低、クズ、きもい、邪魔、出ていけ、帰れ、死ね、てめえ、この野郎、貴様
(2)自尊心を傷つける、能力を否定する言葉
(3)身体的特徴をけなす言葉
(4)恐怖感を与える言葉
2.コーチの暴力的(攻撃的・虐待的含む)振る舞い(行動・行為)
(1)殴る・蹴るなどを連想させる行為
(2)プレーヤーと近接(顔の目の前、腕一本分より近い距離)して高圧的威圧的に指導する行為
(3)「おい!」「こら!」と大声でプレーヤーを高圧的威嚇的に指導する行為
(4)継続的、かつ、度を超えた大声でプレーヤーを指導する行為、いわゆる怒鳴りつける行為
(5)物に当たる、投げる、床を蹴るなどの行為
3.第三者が不快と感じる振る舞い(行動・行為)
(1)不潔な服装、裸足やスリッパでの指導
これはみると、宣言で述べられていた「暴力的行為」というのは、実際に殴ったり蹴ったするのではなく、高圧的な態度や威嚇のことを指していることがわかります。
ツイートのなかで「叱責し」という言葉もあったので、その時の表現によっては、このテクニカルファウルに該当することもあるでしょう。ただし、今回のツイートでは、その後「殴った」という記述まであります。これがテクニカルファウルを飛び越える範囲になってくるということです。
最後に、プレーコーリング・ガイドラインに追記されていたディスクォリファイングファウルの補足文もご紹介します。
8.ディスクオリファイングファウル(DQ)
JBAプレーコーリング・ガイドライン(2019年4月1日~)
プレーヤーやベンチパーソネルによって行われる、特に悪質でスポーツマンシップに反する行為に対するファウル
〜中略〜
(2)著しくゲームを尊重するべきことに反する行為
1:審判に対して、異論を唱えるために身体接触を起こすことや、ボール等を強く投げつける行為
2:観客および観客席に対して、直接ボールや身に着けているもの、その他のものを力強く投げ込む行為
3:その他、著しくスポーツマンシップの精神から逸脱している行為と判断したもの
4:自チームに対しての暴力行為(インテグリティの精神)
このように、「自チームに対しての暴力行為」というのがディスクォリファイングファウルであることが明記されるようになりました。
このことからも、今回ツイートしているケースは、ディスクォリファイングファウルの処置が適切であることがわかります。
バスケ界に誠実な世界はくるのか
このように、コーチの暴力的な行為に対しても厳罰な処置をする流れになったことは、とても良いことだと思います。
きっかけはあの事件
2012年12月、桜ノ宮高校バスケ部キャプテンが体罰を受け自殺をするという痛ましい事件がおきました。この事件をきっかけに日本体育協会や文部科学省などで次々と暴力根絶の宣言がされることになります。
そうした事件から6年。2018年12月というタイミングでJBAのなかでも「インテグリティ委員会」という組織が形成されます。この事実だけを見ると、この対応の遅さには疑問を抱かざるを得ませんよね…。
もちろんbjリーグとNBLの合併など、他にも大きな懸念事項がたくさん進んでいた時期なので、様々な事情はあったのだと思います。それでも実際に委員会が形成され、暴力根絶の宣言がされるまでこれだけのタイムラグがあるとは…。
それだけ暴力に対する認識の甘さがバスケットボール界にはあったということなのでしょうか。
暴力をなくすために審判ができること
正直な話、自分が学生の頃は、実際に暴力を振るわれる・高圧的な態度で叱責されることなんて、日常茶飯事でした。さらに一昔前には、水を飲ませない、吐くまで走らせる、といったような根性論にちかい誤った指導がされていた時代もあると聞いています。
今回の宣言やテクニカルファウルの規定が明確に定められたことによって、少しずつではありますが暴力行為が行われる機会は減っていくでしょう。逆に減らしていくためには、審判も徹底的に運用・適用をしていかなくてはいけません。
ただ、一方で、実際の練習中はどうでしょうか。日常生活ではどうでしょうか。そうした時間においては審判もルールもありません。実際に暴力を行なっていた指導者一人一人が、どれだけのスピードで変わっていくことができるのか。これこそが問題解決の根本であり、その解決にはより多くの時間がかかることになるでしょう。
そうした試合外のことも含めて、審判は厳格にルールを適応させていかなくてはいけません。暴力を断絶し、よりバスケットボールが楽しめる世界をつくるために、少しでも早く、クリーンな考えが広まってくれることを祈ります。